重ね合わせ
海のかなたの
あの日
あの時の
風のそよぎ。
息をひそめ
耳を閉じ
瞼を開く。
漂白された「記憶」が
海面を滑って
「知覚」のドアを敲く。
懐かしい
思い出の
小人たちが
飛び出してくる。
思い出
十七歳は一度だけ、
と
そう、きみに、歌われても
おれの今いる
身体や
心や
家や学校や
おれの
未知のかなた、
海や山や街に
どこにも
どうしても
なにかが
なにかなのかは
確かなはずなのだが
その
そう
そんな
祈祷の兆しが
どこにも
どうしても
ん
見つからない。
どうにも
こうにも
ん
見つからない、
そう
探せない
なにもない
なにも
ない
なにも
ない
そう
おれの日々、
おれの
日々、日々、日々。
記憶
高校の授業を終え、
土ぼこりの舞う校庭を横切って
運動部の部室に向かう。
長いコンクリート塀に沿って並ぶ
一坪長屋群のような
運動部部室へ向かう。
ラグビー部とサッカー部に挟まれた陸上部、そこがおれの部室。
ランニング用具をバッグに入れ、校庭を出る。
おれの練習グランドは別の場所にある。
裏門を出ると細いバス通り、左側に行く。
歩いて十二、三分。
幹線道路沿いの
他校のグランドがおれの行先、
孤立する
十七歳の
無為の
流浪する魂の
ランニンググランド。
異界
いかつい男たちが
身体を集め
寝転んだり
抱き合ったり
にらみ合ったりしている。
ここは
明大ラグビー場
汗と
泥と
血にも
まみれて
舞踏を
行進を
持続する。
おれはその野生を
野獣の群れを
意識下に閉じ込め
自身の
空想の世界
自分のグランド
ランニングトラックに向かう。